アルマイト後にピンが入らない。穴寸法とマスキングをどう指定するか
処理前のはめ合い確認だけでは、完成品の組付けは決まりません。仕上がり寸法・処理範囲・検査段階をそろえて発注します。
仮に、アルミ製ブラケットの位置決め穴を考えます。切削後の検査ではピンが滑らかに入ったのに、黒アルマイト後には入りません。注文書には「黒アルマイト」、図面には穴径がありますが、その寸法が処理前と処理後のどちらに適用されるかは書かれていません。次のロットで穴を広げる前に、皮膜が必要な面と、組付け時に守る寸法を決める必要があります。
処理前に入ったピンが、完成品で入らない理由
アルマイトは、表面のアルミを酸化皮膜へ変える処理です。皮膜は元の表面より内側と外側に成長し、AACは寸法変化が工程・合金・前処理によって異なると説明しています。[1] 切削時の測定結果だけでは、処理後の穴寸法は確認できません。皮膜の証明書も、完成品のはめ合いを示すものではありません。
元の穴壁より外側へ成長した部分が、両側からピンの入る空間を狭めることがあります。ただし、エッチングなどの前処理も完成寸法に影響します。図は変化の方向を示す模式図で、工程全体の変化量ではありません。一般的な膜厚を半分にして加工寸法へ反映せず、材料・全工程・穴形状を処理先に見てもらい、設計側が完成状態を承認します。
- 1元のアルミ表面
- 2穴内面の陽極酸化皮膜
- 3マスキング指定箇所
断面の模式図。皮膜と変位を誇張しています。穴の両側が有効な径に影響します。マスキングは別途選ぶ設計条件であり、寸法が変わらないという保証ではありません。
重要な寸法には、測る段階も添える
まず、ピンの役割を確かめます。取り外すカバーの位置決めなのか、荷重を受けるのか、ねじを案内するだけなのか。必要な処理後の寸法限界と、関係する面や幾何精度の条件を、その穴に対応付けます。呼び径だけでは合格範囲は決まりません。手元のピンが一本入っただけでは、後のロットとの互換性も分かりません。
AACの仕様ガイドでは、合金・前処理・陽極酸化皮膜を指定条件として扱っています。[2] 仮のブラケットなら、位置決め穴を「完成後に管理する重要箇所」として示し、相手ピンの仕様又は図面版も添えます。別の寸法を意図的に処理前で管理する場合は、その旨を明記します。加工先と処理先が同じ完成品を見積もるための前提です。
皮膜を残すか、穴を保護するか
穴にも皮膜を残す案では、必要な表面状態を保ちながら、加工代と完成寸法を成立させる検討が必要です。穴内に陽極酸化皮膜がなくても設計上問題がなければ、マスキングが候補になります。処理後に穴を仕上げる案も考えられますが、組付け不良を直すために、その場で指示する作業にはしません。
下表は仮例の比較用です。工場の対応能力を示したものではありません。誰が完成品を納め、誰が工程を承認し、何の証拠を添えるかまで質問します。加工と処理を別々に発注するなら、完成後の穴が許容範囲を外れたときの調整窓口も決めます。各社が担当工程を終えても、買い手の手元では組み立てられない、という受渡しを防ぐためです。
| 工程案 | 発注前に決めること | 受け取る確認結果 |
|---|---|---|
| 穴内もアルマイト | 発注前に決めること完成寸法と工程に応じた加工代 | 受け取る確認結果完成後の穴寸法と必要な皮膜検査の結果 |
| 穴をマスキング | 発注前に決めること皮膜を付けない完成面と境界の承認 | 受け取る確認結果完成後の穴寸法と境界の確認 |
| 処理後に穴を加工 | 発注前に決めること皮膜を除く範囲と最終表面処理の承認 | 受け取る確認結果追加加工後の寸法と合意した表面状態 |
「穴をマスキング」の境界を描く
West-Techは選択的なマスキングと重要な境界の指定を説明し、アルマイトしない面にも別処理が指定される場合を挙げています。[3] 図面では保護する穴の長さ、入口の面取り、処理する外面への移行部を示します。「穴をマスキング」だけでは、面取りが保護範囲に入るかを相手が判断できません。
境界がなぜ重要なのかも伝えます。ピンの肩が入口に当たるなら、境界は組付け部の条件です。外から見えるだけの箇所なら、外観の許容条件として分けて扱えます。実現できる境界と合格範囲を処理先に提案してもらいます。CAD上の色分けが明瞭でも、現物に同じ鋭い境界ができるとは限りません。誰も見積もっていない境界精度を後から求めないことが大切です。
完成後の穴と、皮膜の証拠を分けて受け取る
初品では、合意した全工程の後に、対象穴を測った結果を受け取ります。図面版、測定箇所、方法が分かるようにし、径を一か所測るだけで足りるのか、穴の長さ・形状・測りにくさから追加確認が必要かを相談します。膜厚の結果にも合意した測定位置と方法を付けます。測りやすい外面の値を、そのまま穴内全体の証明にしないためです。
組付けは指定の相手部品又は合意したゲージを使い、条件を決めて確認します。ただし「ピンが入った」だけでは、緩すぎるかどうかは分かりません。寸法結果と機能確認を並べて見ます。ロットの抜取り方と出荷可否の判断も発注前に合意します。初品の合格は、その工程案と試料を評価した結果であり、量産時の受入確認を不要にするものではありません。
価格比較の前に、一つの工程案として回答をもらう
注記した図面を、加工と表面処理の関係者へ同じ前提で渡します。工程案、マスキング範囲、完成寸法の責任、検査資料をまとめて回答してもらいます。「黒アルマイト対応可能」という返事だけなら、はめ合いの疑問は残ったままです。未回答の条件は見積比較で見えるようにし、含まれていると扱いません。
前提がそろったところで、マスキング、最終検査、初品対応、処理後の追加加工の費用を比較します。相手から穴の許容範囲を広げる案が出た場合、それは設計の承認事項です。購買上の確認だけで寸法を変えないようにします。機能を満たす案が複数あれば、工程全体の手間、受渡し、合格を示す証拠をそろえて選べます。
図面に添える質問文
質問例を開く
着色した位置決め穴について、提案する表面処理をすべて終えた状態で、指定の寸法範囲を満たすかご回答ください。前提とした合金・図面版、アルマイトの規格と合意する版、皮膜の条件、穴と面取りのマスキング境界、処理後に行う加工の有無をご提示ください。完成寸法の受入責任者と、初品・ロットの検査資料に含まれる内容もお願いします。製作前に必要な図面変更は明示し、承認なく許容範囲を変更しないでください。
出典と確認範囲
- Aluminum Anodizers Council — Anodized Aluminum FAQ
AAC FAQの寸法変化・前処理の説明を参照。一般的な解説であり、この部品の加工代を定める資料ではありません。
- Aluminum Anodizers Council — Specifying Anodized Aluminum
AACの仕様指定ガイドで材料と処理の条件を確認。掲載された過去の規格参照から、契約に使う現行版は確定していません。
- West-Tech Finishing — What Is Masking in Anodizing and Why Is It Important?
West-Tech自身によるマスキング範囲・境界の説明。他社の対応能力や仮例の合格範囲を保証する資料ではありません。